鞆の浦のペーパークラフト
鞆の浦
奇跡の港
を巡る
鞆の浦 奇跡の港を巡る旅
鞆の浦
新幹線が停車する福山駅からバスで30分あまりで
行けるというのに、そこには日常的な現世とは別空間にあるかのような
港町がある。
瀬戸内の港町は、江戸時代まで物流の動脈として機能し、発展してきた。
中でも鞆の浦は、弓を引く時に使った防具「鞆」の形に似ている
天然の良港であり、また瀬戸内海の中央部に位置したことから、
九州方面からの潮の流れと大阪方面からの潮の流れが交差することで
強い潮流が生じる場所にある。
これを航法に利用して推進を得る、「潮待ちの港」として重要な港だった。
そしてこの町には、江戸時代の港と町並みの雰囲気が
そのまま残っている。
べんがら色の格子が美しい、
江戸時代から続く老舗、澤村船具店では、
船舶に使われる電球が現役で販売されており、風情を醸す。
澤村船具店の女将さんが親切に教えてくださったが、
鞆の浦でもっとも古く、日本でも最も古い家屋に属する部類の
建物が、この船具店の向かい側にある船具店の倉庫なのだそうだ。
炭素による年代測定ではじめて判明した。
年代が記録に残るものの中で日本最古の古民家は奈良の五條にあるが、
それに匹敵するほどの歴史を持つ。
潮風が吹き付ける港町の中に、300年前の木造家屋が残っているという意外性。
その建物は、おそらく専門的な眼で見なければ、ほかの建物と区別がつかない。
しかしそれは、鞆の浦という町が、300年前の建物と調和する景観を
いまに残しているという証拠にもなる。
特に常夜灯へと通じるメインストリートには、
目を見張るような素晴らしい建物が幾つも残っている。
この町の屋根にはひとつ、着目したい。
町を散策してみればよくわかるが、
海と山に囲まれた狭い平地に、密集して建物が建てられている。
建物の屋根は、隣家の軒下まで突き出していて、高さが不ぞろいである。
なぜ、こんなちぐはぐな高さの屋根の町並みが形成されたのか。
狭い土地故に起きた現象であるが、はじめに建てた家の
屋根が隣家の領空を犯してしまえば、隣家は同じ高さの
屋根が作れないから、それより低く作るしかない。
単純にこれが繰り返された結果、この不思議な屋根の町並みが
形成されたそうである。
鞆の浦には建物以外にも、港の機能として重要な要素が
すべて残っている。奇跡の港町ともいえるだろう。
湾曲する海岸は雁木で囲まれるが、
その海に通じる石段の光景がなんと魅力的なことか。
石段に腰かけて、港の風景をずっと眺めていたくなる。
そして鞆の浦のシンボルともいえる常夜灯、
江戸時代の姿をそのまま残す波止場の存在が、
湾の景観の魅力を一層引き立てる。
これ以外にも船番所、焚場が残る鞆の浦は、
失われた港湾施設が残る唯一の場所である。
鞆の浦を語るうえでは、
坂本龍馬が海援隊士を連れて遊んだという
「遊郭」の存在も欠かせないが、そんな「遊郭」についても
ひとつの興味深いエピソードがあった。
鞆の浦は、戦国時代には足利義昭が信長に追いやられ、
鞆幕府を開いた。また、さらに昔には、平氏が源氏の追撃から
逃れてきた。
平氏は滅亡の舞台となる壇ノ浦まで逃れるが、その最中に
足手まといとなった女官を鞆の浦に残したという。
その高位女官は 上臈(じょうろう)と呼ばれるが、
当然、取り残されたものたちに生活の術はなく、
生きるために遊女となり生計を立てた。
一説には、この上臈が、遊女を指す女郎の語源になったという。
そんな歴史的な背景を背負い、かつ
維新志士たちが羽目を外した場所として、
鞆の遊郭跡は残っている。
また、鞆の浦の特産品として現役で生き続ける保命酒に
関わる豪壮な建物が幾つも残っている。
現在でも保名酒の醸造を行っている業社は4件あり、
歴史を感じさせる店舗で販売を行っている。
保名酒はもち米を主原料として焼酎を用いて
製造した漢方酒薬。これに中国の16種類の漢方薬が
漬けこまれて製造される。
鞆の浦は物流の拠点であったことから、昔から醸造のノウハウも蓄積しており、
そこに漢方医の子息であった中村吉兵衛が薬味を加えたことで、保名酒が誕生したという。
江戸時代まではこの中村家が藩から庇護を受け、独占的に販売していたが、
明治になり廃藩置県が行われると、中村家は庇護を失い、専売制も廃止、
保名酒のライバル会社が次々と現れた。
中村家は明治36年には完全廃業となってしまったが、
その後も伝統的な製法が鞆の浦に引き継がれていった。
鞆の浦の観光名所となる太田家住宅は、元々、この中村家の屋敷だったところ。
屋内を見学しても、かつての繁栄の跡を感じ取ることができる。
鞆の浦の町には、歴史が刻まれた史跡が幾つも残っており、
そして、それが土地に根付いている。
この町は本当に素晴らしく、もっと人々の目を惹きつけ、
いずれ世界遺産になるような気がする。
それでも、観光地化しすぎてない、自然体のこの町の、
独特の穏やかな雰囲気を残していってもらいたいと願う。
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