大谷の石を巡る旅

栃木・宇都宮






大谷の石を巡る旅/宇都宮




  • 大谷の石を巡る旅

    栃木といえば日光方面や蔵の街栃木市に脚光があたるが、
    宇都宮からわずかバスで30分ほどのところに
    自然と文化が調和された素晴らしい場所がある。

    「大谷石」などという名前は普段耳にすることなど滅多にないが、
    関東大震災や戦後の復興で多量に用いられ、いまも都内の
    街中でも随所にみられる天然石。
    ばらつきのある茶褐色と、斑点や小さな穴が無数に目立つ、
    ふぞろいな石材。しかし、現在でもあたたかみのある石材として
    人気がある。
    この石の出生地が今回の旅先である、大谷。


    宇都宮西口のバス停から「大谷経由・立岩」行きに乗り、
    バスで30分ほど。
    おそらく大半の乗客は、観光の目玉である
    「資料館入口」で下車すると思うが、
    そこだけの観光でここを去ってしまうのはあまりに惜しい。
    この大谷独特の景観を堪能するためには、
    「大谷橋停留所」で下車することをお勧めしたい。



    バス停からほどなくすると、
    鴨風岩の見事な石造りの社屋が見えるが、
    この意匠を凝らした和洋折衷の建物にも勿論、
    大谷石が使われている。




    この鴨風岩について調べてみると、
    幕末から大谷石の採掘業を営んでおり、
    以降も大谷石採掘販売業の中心的な役割を果たしている、
    大谷石の立役者の一企業であるようだ。



    それも納得がいく、素晴らしい風情を持った建物だ。
    この建物は栃木県指定有形文化財に指定されている。



    大谷石は、宇都宮市内や栃木の蔵の街などの
    多くの歴史的建造物の建材として使用されている。
    以下はその一例である。

    蔵の街栃木 横山郷土館

    宇都宮 松が峰教会


    柔らかく軽く、加工のし易い石材として、
    また独特の色合いと風味を持つ建材として、
    建築家からも愛好されている。
    民藝の普及に努めた柳宗悦もこの石にほれ込み、
    駒場にある日本民藝館に、もともと宇都宮にあった
    門を移築した。
    柳宗悦は、大谷石について以下のように触れている。
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    質が堅くないだけに、石に連想される冷たさがない。
    丁度石と木との間のような性質がある。
    堅くないだけに親しみやすい。
    何も上等な石というわけではいが、
    私は大谷石に日本的なものを見出さないわけにゆかぬ。
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    明治村 帝国ホテル


    また、いまは明治村に残る、歴史的名建築の帝国ホテル
    の石材としてフランク・ロイド・ライトは大谷石を選んだ。
    ライトは大谷石について以下の記述を遺している。
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    もちろん、私は日本で得られる材料を使いたいと考えたのだが、
    大谷石という敷石に使われていた石を使いたい、といったときには
    建築委員会の猛烈な反対にあった。これは大きな焼けた褐色の
    斑点のあるトラーバーティンのような石であるが、
    この石はあまりにありふれているというのである。
    しかし私はこれが気に入っていたので頑張り、とうとう勝って
    大谷石を使用した。この石ならいくら使ってもよかった。
    そして、採石場を日光のそばに一つ買い切り、そこで石を
    切り出して東京まで運んだ。
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    ライトのいう「大きな焼けた褐色の斑点」というのは
    大谷石の特徴で、これは「みそ」と呼ばれる穴のことである。
    どうやら、石が形成される火山灰に木の破片や
    不純物が紛れ込み、それがやがて風雨を受けて洗い流されると
    シミのように穴と斑点が残ったものを呼ぶらしい。
    そんな、云わば欠点ともなりうるような要素が
    逆に味わい深い要素となり、大谷石の魅力のひとつになっている。

    帝国ホテルは完成直後に関東大震災により被災しているが、
    建物は殆ど被害を受けなかったことから、ライト氏は喜び、
    またその耐震性からも大谷石の名が全国的に広まったという。


    ここから大谷街道沿いに歩くと、のどかな田園風景が広がり、
    しばらく歩くと巨大な石像、平和観音へと続く参道がある。



    この辺りから奇抜な形状をした岩山が目立ってくる。
    切り立った岩山や巨大な仏像の姿は、
    同じく採石で有名な千葉の「鋸山」と共通するものを感じる。





    そして、大谷の岩山の間をさらに進むと、
    いよいよ最大の見せ場の大谷資料館へとたどり着く。


    一見すると地味な外装の資料館にしか見えないが、
    一歩地下空間に入るとそこは別世界。
    古代エジプト・古代ローマの地下神殿を彷彿とされるような、
    そのスケールの大きさ・その創玄な美しさに圧倒される。







    光の演出も美しく、岩肌には人工的な幾何学模様
    が不思議とマッチする。







    もちろん現在でもその美術的な価値も認められ、
    ドラマやプロモーションの撮影でもよく使用されるが、
    いま流行りのプロジェクション・マッピングを多様すれば、
    さらなる美術表現を模索できる場所でもあると思った。



    採掘の道具なども資料として展示されているが、
    どれも扱うのが大変そうな道具ばかりである。
    これだけの採石を行うのにどれだけの労力が費やされたのか
    想像もつかない。
    しかし、そういった先人達の多大な労苦のうえでこの巨大空間が
    出来上がったということを忘れてはならない。






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